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Tokyo Motorist
2019.05.05 Sun
4月26日発売号をもって「MOTO NAVI」が創刊100号を迎えた。
おめでとうございます(^^)
思えば18年前、2001年3月26日に1冊目の「MOTO NAVI」を発売したときには、
100冊を数える雑誌になるなど、夢にも思わなかった。
ということで、ひさびさに?「MOTO NAVI」の思い出を語ろうと思う。
◇
MOTO NAVI創刊号で、最も思い出深い企画のひとつは、
作家・片岡義男さん描き下ろしていただいた短編小説だ。
思えば原付きバイクに乗り始めた16歳の夏、僕は片岡義男さんの小説に出会った。
夏休みに遊びにいった親戚の家で、年上の従姉妹の部屋の本棚に、
赤い背表紙に「彼のオートバイ、彼女の島」というタイトルが書かれた文庫本を見つけたのだ。
原付きに乗るようになり、オートバイに夢中だった僕は、
その「オートバイ」という文字が気になり、小説のページをめくった。
そこには高校1年生の僕にはちょっと難解な、大人のラブストーリーが描かれていたが、
「カワサキ」「W3」といったオートバイの名前が出てくること、
オートバイが登場するシーンの描写のリアルさ、
それらに惹かれて、夢中になって読んでしまった。
そしてそれ以来、片岡小説の世界にはまっていった。
「幸せは白いTシャツ」「ボビーに首ったけ」「湾岸道路」……。
僕の書棚には赤い背表紙が並んでいった。
だから「MOTO NAVI」創刊号の企画を考えているとき、
“片岡さんに小説を書き下ろしてもらう”というのは、真っ先に思いついたのだが、
とはいえ「そんなこと無理だよな」「書いてもらえる訳ないよな」……
と思っていたというのが正直なところだった。
片岡さんは自動車雑誌の「NAVI」に寄稿してくれたことがあったから、
編集部の連絡先リストでその電話番号を調べることはできた。
僕は思い切って、連絡をしてみることにした。
「MOTO NAVI」というオートバイの雑誌をつくること。
その雑誌で片岡さんに短編小説を書き下ろしてほしいということ。
片岡さんが小説で描いたカワサキ「W3」の現代版と言える、
「W650 」が登場するストーリーにしてほしということ。
「わかりました。書きましょう」
このリクエストに対して、片岡さんは意外にもあっさりOKをくれた。
僕は本当に、飛び上がりたいほど嬉しかった。
僕の依頼で、片岡さんがストーリーを書いてくれる!
そして片岡さんのバイク小説が一遍、生まれるのだ。
◇
1ヶ月ほど後、片岡さんからファックスで送られてきた原稿は
「左、300R、逆光」というタイトルの、
美しい女性とカワサキW650 を主人公としたストーリーだった。
その小説を、僕が世界で最初に読むのだ、そう思うと胸が震えた。
その後、片岡さんにはなんどかエッセイやショートストーリーを寄稿してもらった。
いつも快く引き受けてくれた。 ◇
そして2013年夏、僕はMOTO NAVIで片岡義男のバイク小説の特集を企画した。
それを電話で伝えると、片岡さんは「いや、もう特集はいいでしょう」と仰った。
僕は必死に説得した。いや、お願いした。
片岡小説の特集を、きっと多くの読者が喜んでくれるはずだと。
そして「片岡義男とオートバイの旅」という特集号が生まれた。
特集には、かつて赤い背表紙の文庫本のカバーや中面に使われた写真を大きく使った。
モデルを務めた三好礼子さんが保管していた写真を使わせてもらったのだ。
撮影者である大谷勲さんに使用の許可をもらおうとあちこちに連絡したが、
許可をもらうことは叶わなかった。
残念ながら、大谷さんはすでに亡くなっていたのだ。
◇
この特集の中で、ひとつの奇跡が起きた。
じつは片岡さんと10年以上、作家と編集者としてお付き合いいただくなかで、
じつは一度も「会った」ことがなかったのだ。
僕が「ご挨拶に伺いたい」と言っても、片岡さんは「いや、別にいいですよ」と仰っしゃり、
いつもいなされてしまうというか、なぜかお会いすることは叶わなかった。
だがこの特集には、どうしても片岡さん自身に登場してもらいたい、という想いがあった。
とはいえ単独のインタビューをお願いしても、また断られてしまうだろう、という気がしていた。
そこで、片岡さんと三好礼子さんの対談にしてはどうか、と考えた。
礼子さんとの対談ならば、片岡さんも出てくれるのではないか、そう思った。
果たして、その思いは通じた。
2013年の8月某日、代官山蔦屋のカフェで、片岡さんと三好礼子さんの対談が実現した。
そしてその日、僕は初めて片岡さんに直接お目にかかることができたのだ。
「片岡義男とオートバイの旅」は、多きな反響があった。
たくさんの読者から「どうもありがとう」と感謝さえされた。
そして片岡さんご自身も、喜んでくれた。
そのことが何よりうれしかった。
◇
そして2015年、その特集の続編たる「片岡義男とオートバイの夏」を企画し、
「彼のオートバイ、彼女の島」の舞台である瀬戸内の“白石島”での読者ミーティングを実現した。
MOTO NAVIに掲載した片岡さんの小説やエッセイ、そして片岡さんの特集号は、
僕にとって大事な大事な思い出であり、宝物だ。
そしてこの夏、またあの「彼女の島」に行きたいと思っている。
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この記事を書いた人
雑誌「MOTO NAVI」「NAVI CARS」の創刊編集長を務め、クルマやバイクのある生活の「楽しみ」を発信し続ける。現在はエディター、ライター、コメンテーターなど幅広く活動。
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